どうして老化するのか?活性酸素の害からDNAを守る方法とは?

活性酸素の害
予防医療

老化のメカニズムは未だ解き明かされてはいませんが、その一端が少しずつ解明されてきました。現在わかっている老化や寿命のメカニズムをご紹介します。人生100年時代に求められる健康づくりを考えていきましょう。

潜在的な寿命と老化

生物には潜在的な寿命があります。私たち人間の寿命は120年程度と考えられていますが、この潜在的な寿命を全うする人はほとんどいません。

老化は生命活動の中で生じる身体的な機能低下です。老化を感じ始めるのは、肌のシミやしわ、筋力の低下、疲れやすさ、傷や病気の治りにくさ、記憶力の低下、目のかすみなどがあるでしょう。実際、40歳あたりを境に免疫機能や骨密度、ホルモン分泌量、筋力の低下が目立ち始めます。

しかしそのスピードには個人差があります。なぜなら老化の進行にさまざまな要因が影響しているからです。

人生100年時代の課題は「健康寿命の延伸」~「平均寿命」と「健康寿命」~

厚生労働省が発表した2019年のデータでは、平均寿命は男性が81.41歳女性が87.45歳。一方、健康寿命は男性が72.68歳女性が75.38歳です。健康寿命とは普段通り健康的に生活できる寿命ということです。平均寿命と健康寿命の間には男性で約9年、女性で約12年の差があります。これは「日常生活に制限のある不健康な期間」=「普段通り健康的に生活できない期間」です。平均寿命と健康寿命の差が大きいと、ご自身で自由に生活できなかったり、介助や介護が必要になったりするなど、個人の経済的な問題だけでなく社会保障費にも大きな影響を及ぼします。

政府は誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現のために、「雇用・年金制度改革等」や「医療・福祉サービス改革プラン」とともに「健康寿命延伸プラン」を発表しました。その中には健やかな生活習慣の形成や疾病予防・重症化予防、介護予防・フレイル対策、認知症予防を目指したものが含まれます。

私たち個人も自らがどうしたら健康を維持することができるかを考え実践していくことが求められています。健康寿命を伸ばすことは有意義な人生のために不可欠といえるでしょう。

老化のメカニズムを探る~細胞・遺伝子レベルでは何が起こっているのか~

体内では老化はどのようにして起こるのか?細胞・遺伝子レベルで起こるさまざまな要因が互いに関係しながら、遺伝子に組み込まれた「老化・寿命のプログラム」に影響を与えていることがわかってきました。

細胞・遺伝子レベルにおける老化因子

  1. テロメアの短縮

染色体(DNA)の末端にあるテロメアと呼ばれる部分は、細胞分裂の度に短くなり、やがてなくなると新しい細胞を作ることができなくなり老化が進みます。このテロメアの長さは、タバコや肥満などの生活習慣の要素によって短縮することが分かっています。

  • ゲノムの不安定性

細胞の中にあるDNAは、活性酸素や細胞分裂のエラーなどによって日々傷つけられていますが、体には抗酸化システムやDNA修復システムが備わっています。しかし加齢にともないこれらの機能が低下することでDNAの損傷が蓄積され、さらなる老化を引き起こします。

  • エピジェネティックな変化

生活習慣や環境因子によってDNAなどに印が付けられ、DNA配列は変化せずに遺伝子の働き方が変化することをエピジェネティックな変化といいます。この変化の蓄積も老化と密接にかかわることが示唆されています。

  • タンパク質の品質管理機能の低下

細胞には内在するタンパク質の品質管理機能が備わっています。しかし加齢にともなって異常なタンパク質が蓄積すると、この機能は低下することが報告されています。老廃物の蓄積は認知症などの病気につながります。

  • 栄養素感知の制御不全

栄養素は細胞増殖、組織形成・維持、生殖といったあらゆる生命活動に必要で、栄養や代謝状態の感知・応答に関わるシグナル伝達経路が老化や寿命の制御にも関与していることがわかってきています。その中には寿命に明確な影響を及ぼすとして注目されているものもあります。

  • ミトコンドリアの機能不全

加齢にともない細胞が老化すると、エネルギー産生の減少などのミトコンドリアの機能不全が生じます。機能不全となったミトコンドリアはさまざまな病気を引き起こし、老化や寿命短命につながります。

  • 細胞老化

細胞は傷ついたり、必要な構成要素が不足したりすると分裂や成長が止まります。この状態を細胞老化と呼びます。加齢にともない細胞老化の状態にある細胞(老化細胞)の割合が増加し、老化細胞から出される炎症性の物質により免疫機能や身体の恒常性に悪影響を及ぼします。

  • 幹細胞の枯渇

組織や臓器などで働く様々な細胞を作り出す幹細胞も、他の細胞と同様にDNA損傷や細胞老化などによって老化し、再生能力が低下して幹細胞が枯渇します。再生可能な幹細胞の枯渇は組織や生物の老化を最終的に決定していると考えられています。

  • 細胞間のコミュニケーションの変化

細胞間のコミュニケーションの変化も組織の健全性が低下する一因となります。例えば加齢にともない免疫細胞が老化すると体内の免疫にかかわる細胞間の情報伝達にも変化が起こり、病原体と戦う力が衰えます。

老化を遅らせること=健康づくり ~細胞・遺伝子レベルで老化を抑えることが健康づくりにつながる~

健康寿命を伸ばすことは大きな課題となっており、老化を遅らせることが重要であると考えられ、研究が進められています。

順天堂大学の研究チームがマウスの研究で老化細胞を除去するワクチン開発に成功したことを発表しました。研究チーム、開発した血管内皮の老化細胞除去ワクチンをマウスに接種し、老化細胞の減少、慢性炎症の改善、さらに肥満にともなう糖代謝以上や動脈硬化の改善も確認しました。この研究が示すように、細胞の老化は体全体の老化現象や加齢にともなって増加する病気にもつながっているのです。

このように老化のメカニズムが遺伝子や細胞レベルで解明され、健康維持や医療に役立てられようとしている中で、老化を抑え若さを保つ方法論と、病気を予防し体を健康に維持する方法論は非常に似ていることが分かってきました。

老化を早める大きな原因「活性酸素」

細胞・遺伝子レベルから老化を遅らせ健康寿命を延伸するために私たちができることは何か?細胞、遺伝子レベルで起こるゲノム不安定性、ミトコンドリア機能不全、細胞老化など、これらはいずれも損傷の蓄積によるものです。

そして損傷の大きな原因となるのが、体内で過剰となった活性酸素です。活性酸素は体内に取り込んだ酸素の一部が不安定化したものです。体内ではウイルスや細菌といった異物の排除などに働き、生態を維持するために必要なものですが、過剰となった活性酸素は「酸化ストレス」となり組織や細胞、遺伝子を損傷し老化や病気の原因となります。

この活性酸素の害から体を守ることが健康長寿を実現するポイントとなります。活性酸素の害から体を守る有効な手段の1つは抗酸化栄養素を摂ることです。代表的なものとしてビタミンC、ビタミンE、植物が持つポリフェノール、鮭白子由来の核酸(DNA)、酵母由来の核酸(RNA)などは意識して摂ることができる栄養素です。

活性酸素(酸化ストレス)と遺伝子に組み込まれた「老化・寿命プログラム」~種の進化のために必要なもの~

生物は遺伝子に組み込まれた老化・寿命のプログラムによる老化の進行により、寿命を迎えると考えられています。また加齢とともに生体防御機能が低下し、過剰な活性酸素に対抗する力も低下して酸化ストレスが高まり、損傷が蓄積することが寿命に影響を与えると考えられています。生物の進化は、酵素を利用してエネルギーをつくる仕組みを得た時から飛躍的に加速しました。活性酸素はその仕組みの中で発生する副産物で、遺伝子変異を引き起こす要因でもあります。しかしその変異が種の多様性や進化に影響を与えるのかもしれません。その意味においては活性酸素も、一定の役割を果たしていると考えることもできます。

私達にとって過剰な活性酸素は有害なものです。しかし、種の保存、進化、繁栄という観点から見れば、個体を乗り継ぎ、種を後世へと受け継いでいく遺伝子にとって、寿命などに影響を与える活性酸素は必要なもので、老化・寿命のプログラムは、加齢によって生命防御機能を低下させ、活性酸素を利用することで寿命をコントロールしていると考えることもできるでしょう。

遺伝子からのメッセージにも耳を傾ける

活性酸素は体内でエネルギーを作る時に発生しますが、紫外線を長時間浴びること、過食を繰り返すこと、精神的ストレスをためることなどでも増加します。反対に、生態防御機能に働きかける栄養素を摂ること、質の良い睡眠・休息、適度な運動、生き甲斐を見つけること、これらを実践し続けることが健康寿命の延伸につながります。

そして地球環境の保護につながるような生活スタイルも大事なことだと思います。それは地球上の他の生命たちとの共存、共栄にもつながります。自分の身体を大切に使うこと、環境にも配慮すること、生きる時間を有意義に使うこと。それが、遺伝子が私たちに送っているメッセージだと思うのです。

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