脳は身体の司令塔
私たちが自分らしく生きるための根幹をなす脳は、体をコントロールすることはもちろん、認知、行動、記憶、施行、情動、意思など、心の働きを生み出しています。人生100年時代を向かえるにあたり、ストレスや加齢により変化する脳の機能を維持することが重要です。そこで脳の基本的な仕組みについて考えるとともに、脳を元気に保つ方法や脳に関わる栄養素をご紹介します。
脳の主な構造と働き
脳は主に「脳幹」「小脳」「大脳」の3つに分けられます。「脳幹」は呼吸、心拍、消化、体温調節など生命維持に深くかかわる重要な働きを担っています。「小脳」は主に平均感覚や運動コントロールにかかわる働きを、「大脳」は情報を識別してそれに応じた運動を命じたり、記憶や情動、認知といった精神的な働きを担っています。
「大脳」は脳の中で最も発達した部位で左右に分かれていて、それぞれ機能によって大きく4つに分けられます。視覚を司る「後頭葉」、聴覚や記憶を司る「側頭葉」、感覚の統合や認知などを司る「頭頂葉」、そして人とのコミュニケーション能力や、社会性、理性などを司る「前頭葉」です。それぞれ異なる役割を担っていますが、互いに連携を取り合っています。この様な機能を維持するために脳は全体の約20%のエネルギーを消費しています。
脳神経細胞による情報伝達
例えば知り合いを見かけた時に私たちは声をかけたりしますが、これは目から入った情報が後頭葉から側頭葉に送られて記憶の中にある知り合いの情報がさらに前頭葉に伝わり、声をかけようという指令を出すことによって行われています。
このような情報伝達は、約1000億個に及ぶ脳神経細胞(ニューロン)のつながりによって瞬時に実行されています。脳神経細胞は「樹状突起」から「軸索」を経由して情報(シグナル)を流します。そして「シナプス」から次の脳神経細胞へと受け渡されます。シナプスでの情報の受け渡しは軸索の末端部にあるシナプス小胞に溜められた情報伝達物質が放出され、それを相手側の細胞が受け取ることで行われます。
加齢にともなう脳機能低下の要因
脳内血流量減少によるエネルギー不足
加齢による動脈硬化などの影響により脳の血流量は減少すると、血液によって運ばれてくる酸素や栄養が減少します。
さらに酸素や栄養をもとにエネルギーを作る細胞内のミトコンドリアも、老化などにより機能障害が生じてエネルギーの産生能が落ちます。このように脳がエネルギー不足になると、認知障害を起こしやすくなります。
神経細胞の減少と損傷
神経細胞はある一定の年齢を過ぎると1日約10万個が減少し、脳は次第に委縮していきます。特にコミュニケーションに関わる前頭葉や、記憶に関わる側頭葉は後頭葉に比べて加齢による萎縮が目立ちます。
エネルギー産生で発生する活性酸素が神経細胞を傷つけて、減少に拍車をかけるとも考えられています。
老廃物の蓄積
脳内ではアミロイドβなどの老廃物となるタンパク質がつくられます。神経細胞が老化して病的になると、これらのタンパク質の分解が溜まっていきます。これが過剰になると、神経細胞死が起こり運動機能や記憶・学習機能へ影響しアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患を招きます。
神経伝達物質の減少
シナプスで放出される神経伝達物質の量は加齢とともに減少します。ドーパミンが減少すればパーキンソン病に、セロトニンが減少すればうつ病、アセチルコリンが減少すれば認知症になりやすくなるので、神経伝達物質の量を保つことも重要だと考えられています。
神経細胞はつくられ続け、つながりを保とうとする
神経細胞はほとんど新しくつくられない中でも、記憶を司る海馬などの一部の領域では日常的に新しい神経細胞がつくられることが分かっています。ただし、海馬はストレスによるダメージに弱く、ストレスが多いと神経細胞の新生が抑えられてしまうの、ストレスを溜め込まないことが重要です。
また脳では神経細胞が減少し神経細胞同士のつながりが切れても、残っている神経細胞同士で新しいつながりをつくる仕組みがあります。この仕組みをしっかり働かせることも認知機能の維持に大切です。
脳の健康を保つためにできること
【脂肪酸・抗酸化栄養素を摂取する】
脳の構成成分の約60%は脂質で占められています。中でもドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコタペンタエン酸(EPA)などの多価不飽和脂肪酸は、細胞膜を柔らかく保ち、脳の活性化に役立つことが分かっています。食事の際には青魚に多く含まれるDHAやEPAを積極的に取り入れましょう。またこれらの多価不飽和脂肪酸は酸化しやすいので、ビタミンEや核酸(DNA、RNA)やキノコ類の多く含まれるエルゴチオネインなどの抗酸化成分を一緒に取ると良いでしょう。
【趣味や会話で脳を活性化する】
趣味などで好奇心が湧くと、いろいろと知りたくなり、分からないことを調べようとします。このことが脳神経細胞の新生や情報伝達をスムーズにします。笑顔で会話をすればさらに脳を活性化してオキシトシンなど「快」に関わる神経伝達物質を促します。
【継続的に有酸素運動をする】
あまり負荷がかからないジョギングや早歩きのウォーキングなど、週に3~4回30分以上の有酸素運動をしましょう。心拍数をある程度上げることが大切です。1回の運動でも神経伝達物質の分泌量が増え、継続すれば海馬や前頭葉で新しく神経細胞がつくられ脳の容積が増えることがわかっています。
【質の良い睡眠を確保する】
睡眠中に脳内では発動中に学習した記憶の整理、定着などが行われています。
脳内に発生したアルツハイマー型認知症を引き起こすアミロイドβなどの代謝老廃物を、睡眠中に除去していることがボストン大学の研究によって報告されました。